住宅ローンを完済すると、返済の重荷から解放されて気持ちが楽になるでしょう。しかし、「返済したら終わり」というわけではなく、住宅ローンの完済後は、抵当権抹消や火災保険関係の手続きなども必要です。この記事では、住宅ローン完済までの平均的な期間や、完済後に必要な手続き、抵当権を抹消しない場合のデメリット、抵当権抹消手続きなどについて分かりやすく解説します。住宅ローン完済後の使い道、住宅ローン完済に関するよくある質問も最後に掲載しましたので、ぜひ参考にしてください。
INDEX
住宅ローン完済に必要な平均的な期間
2020年に住宅金融支援機構が発表した「住宅ローン貸出動向調査」によれば、2019年度の新たに貸し出された住宅ローンの平均返済期間は27. 0年(単純平均)でした。一方、同年度における債権の貸し出しから完済までの平均期間は16. 0年でした。
参考:
2022年度 住宅ローン貸出動向調査|住宅金融支援機構
[関連リンク]
完済までの平均期間が20年に満たない理由
通常、住宅ローンは最長35年間で返済することができる一方で、実際に完済されるまでの平均期間は20年未満となっています。これは、多くの人々が返済を早めて全額繰り上げ返済を行っているためです。主な理由として、低金利の別の金融機関に借り換えるための返済、余裕資金の確保による返済、そして子どもたちが独立したり転勤したりして住居を変える必要が生じたための返済などが挙げられます。
住宅ローン完済時に必要な手続き
金融機関での繰り上げ返済の手続き
住宅ローンの完済を、元々の契約通りの返済ではなく、一括で繰り上げ返済する場合には、手続きが必要です。この手続きは銀行との間で行われますが、金融期間ごとに必要な手続きが異なるため、詳細については銀行の担当者や窓口でご確認ください。
一般的には、一括返済を行う予定の1ヶ月以上前に連絡を取ることで、手続きがスムーズに進行します。ただし、住宅ローンの一括返済時には、元本や利息だけでなく、手数料も発生することに注意が必要です。この手数料の金額は金融機関によって異なるため、一括返済を申し込む際には必ず料金を確認しておきましょう。なお、通常の毎月のローン支払いで完済する場合には、以上の手続きは不要です。
抵当権の抹消手続き
住宅ローンの返済が完了した後には、抵当権の抹消手続きが必要です。抵当権とは、住宅ローンの借り手(債務者)が返済不能となった際、貸し手(債権者)が借り手の土地や建物から返済を受ける権利です。住宅ローンを完済すると、借り手は不動産の登記から抵当権を削除できます。金融機関は抵当権抹消手続き案内と必要書類を提供しますが、手続き自体は債務者が行うことが必要です。手続きを怠ると、将来的に買い手が見つからなかったり、土地や建物を担保に新たな融資が受けられなかったりするなどの不都合が生じる可能性があります。金融機関から提供される抵当権抹消に関する書類には有効期限が設定されている場合もあるため、早めに手続きすることをおすすめします。
火災保険の質権抹消の手続き
住宅ローンを活用する際には、状況によっては火災保険に関連した質権設定が行われることがあります。この質権の仕組みは、もしも火災が発生して住宅が被害を受けた場合、火災保険による保険金の支払い先が契約者ではなく、金融機関に対して行われるものです。仮に建物が火災により全焼した場合、抵当権が実行できなくなりますが、質権が設定されていれば、金融機関は貸付金を回収できます。
質権が有効な場合、住宅ローンの返済完了後に金融機関から「保険証書」とともに「質権消滅確認請求書」が送付されます。この通知を受けて、債務者が保険会社と連絡を取り、質権の解除手続きを進めることが必要です。
抵当権を抹消しない場合のデメリット
買い手がつきにくくなる
抵当権が残っている場合、それは登記簿謄本の乙区に表示されます。物件の購入希望者が現れても、抵当権が謄本上で確認できることから、「住宅ローンが実際に完済されているのか」という不安が生じるため、売却が困難になります。実際には抵当権が残っていても売却することはできるため、売れないとは断言できませんが、買主が見つからない可能性が高いです。他の人に対して抵当権が存在しないことを明示するためには、抵当権を抹消する必要があります。
所有者が亡くなった場合、抹消手続きに時間がかかる
抵当権を抹消せずに物件の所有者が亡くなると、新たな所有者となる相続人が抵当権を取り除く手続きを進めることが必要です。複数の相続人がいる場合、物件の相続人が確定するまで抵当権の解除手続きは遅れます。遺言書が存在しない場合、遺産分割の協議が行われ、抹消手続きの前に名義を相続人のものに変更するための相続登記が必要となり、抵当権の抹消まで時間がかかる可能性があります。
新しい融資を受ける時に不利になる
不動産に抵当権が残っている場合、新たな融資を受けることは非常に難しいです。抵当権の優先順位は、登記された順番によって決まります。先に登記された抵当権がまだ残っている場合、金融機関は融資の提供に慎重になります。将来的に新たな借入の予定がなくても、住宅ローンを完済しているのであれば、早めに抵当権を抹消しておけば、必要なときに焦ることなく済むでしょう。リフォームなどのために新規の融資を受ける際に自宅を担保にする場合も、抵当権付き不動産として判断されてしまい、ローンの審査で不利になる可能性があります。
抹消書類の再発行に手数料や手間がかかる
抵当権の抹消手続きに際しては、住宅ローンの完済後、金融機関から提供される「抹消書類」が必要です。抹消手続きを先延ばしにすると、抹消書類を受け取ってから紛失するリスクが高まります。もし抹消書類を紛失してしまうと、再発行には手数料や手続きにかかる手間が生じるため、手元に確実にあるうちに、迅速に手続きを行うことが大切です。また、手続きに慣れていないため書類を忘れたり手続きに不備が生じたりすると、何度も法務局に足を運ばなければならない可能性があります。自分で手続きを行う際には、こうしたデメリットも考慮しましょう。
抵当権の抹消手続きを行う方法
司法書士に手続きを依頼する場合の手順
- 抵当権の完済後、金融機関から抹消手続き書類を受け取る
- 司法書士に抵当権の抹消手続きを依頼する
- 司法書士により作成された抵当権抹消登記委任状に署名と押印を行い、この委任状と抹消書類を司法書士に提出する
- 司法書士は委任状と抹消書類をもとに抵当権の抹消登記手続きを行う
- 抹消登記完了後に抹消が確認できる書類が送付される
以上が、司法書士に手続きを依頼する場合の流れとなります。
費用相場
司法書士に抵当権抹消の手続きを依頼する際、登録免許税と司法書士の報酬が必要です。登録免許税は、<不動産の数×1,000円>で計算します。例えば、土地1筆と建物1棟の場合は2,000円となります。抵当権抹消手続の場合、司法書士の料金相場は、およそ10,000円から15,000円とされています。
自分で抵当権を抹消する場合の手順
つぎに自分で抵当権抹消手続きを行う場合の流れを確認しましょう。
- 金融機関から送られる抹消書類を受領する
- 自身の居住地に該当する法務局を調べる
- 法務省の公式ウェブサイトを通じて抵当権抹消申請書を入手する
- 取得した申請書と必要な書類を持参し管轄の法務局を訪れて申請書類を提出する
- 手続き完了後に抹消手続きが行われたことを示す書類を受領する(法務局で直接受け取るか郵送で受け取る)
準備が必要なもの
抵当権を抹消するにあたって、以下の書類を準備しましょう。
<金融機関から送付されるもの>
- 登記識別情報または登記済証
- 登記原因証明情報(抵当権解除証書や弁済証書などに解除の旨が記載されたもの)
- 金融機関等の会社法人等番号
- 代理権限証明情報(委任状)
- 委任状(金融機関などの印鑑があるもの)
<ご自身で準備されるもの>
- 抵当権抹消登記申請書(法務局のホームページから入手可能)
- 認印
- 登録免許税(収入印紙)
- 免許証などの身分証明書
抵当権の抹消登記申請手続きについては、以下で「一戸建て編」「マンション編」別に分かりやすく説明されています。
参考:
住宅ローン等を完済した方へ(抵当権の登記の抹消手続のご案内)|法務局
費用
自分で抹消を行う際にかかる費用は、登録免許税のみです。登録免許税は不動産の個数に基づき、(不動産の数×1,000円)で計算されます。土地1筆と建物1棟の場合は、合計で2,000円となります。
住宅ローン完済後のお金の使い道
住宅ローンを完済すると、これまでローン返済に充てていた資金が余剰となります。しかし、この余剰資金を適切に管理しないと、使い過ぎてしまう可能性があります。この事態を避けるためには、これまでローン返済に充てていた資金をこれからどのように使うかを慎重に検討し、計画することが大切です。
定年退職後や再雇用期間中は、以前のような収入が得られないかもしれませんが、一定の収入は維持されることが一般的です。この収入を活用して、これまでローン返済に充てていた資金の一部を将来のために積み立ててみることはいかがでしょうか。例えば、毎月自動的に引き落とされる積み立て商品に投資することで、お金が自然と貯まっていき、過度の支出を防ぐことにつながります。
住宅ローン完済についてよくある質問
よくある質問① 一括返済した場合、住宅ローン控除はどうなる?
一度に全額返済すると、住宅ローン控除の対象から外れます。また、一部繰り上げ返済し、返済期間が短縮され残りの期間が10年未満となる場合も、控除が適用されなくなるため、注意が必要です。
よくある質問② 完済したら2軒目でも住宅ローンを利用できる?
住宅ローンを完済している1軒目を売却して2軒目に住み替えで引っ越す場合、2軒目も住宅ローンの利用は可能です。ただし、住宅ローンは原則、居住用の物件に利用されることが前提となります。投資用の物件などを2軒目として購入する場合には、利用することはできません。
よくある質問③ 2軒目も住宅ローンの控除が適用になる?
住宅ローン控除は、住み替え時に要件を満たす場合にのみ適用されます。親族の居住用やセカンドハウス用に借りた住宅ローンについては、この控除の対象外となります。
まとめ
住宅ローンが完済される期間は平均で20年未満です。多くの人々が返済を早めて、全額を繰り上げ返済していると考えられます。ローン完済後には、抵当権抹消や火災保険に関する手続きが必要です。抵当権を抹消しないと売却が難しくなったり、相続の際に面倒になったりする可能性があります。なお、抵当権抹消手続きは自分で行う方法と司法書士に依頼する方法があります。どちらにしても、手続きには時間がかかるため、事前に知識を身につけて、手順などを把握しておくと安心です。またローン完済後には資金を適切に管理するために、積み立て型の金融商品を検討するのも良いでしょう。
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