離婚をするにあたって、「残った住宅ローンはどう支払うのか?」という問題に直面することがあります。離婚で住宅ローンや家の扱いをどうするか判断する前に、明確にしておくべきポイントがいくつかあります。本記事では離婚時に住宅について確認すべきことや一般的な家の処理方法、住宅ローンの支払いに関する検討事項などを詳しく解説します。
離婚時に住宅について確認すべきことは?
離婚の際、夫婦で購入した住宅をどうするか判断するにあたって確認すべきことは3つあります。
不動産の名義・価額
まず、自宅がある土地と建物は誰の名義となっているのかを調べましょう。法務局で不動産の登記簿謄本を取得すれば、土地と建物の名義が分かります。また、不動産に設定されている担保権(抵当権など)も登記簿謄本で確認が可能です。
名義と共に、価額も不動産業者に査定してもらいましょう。土地と建物の価額は、「売却するかどうか」「売却するならいつにするか」「売却しないなら誰が住み続けるか」など今後の方針を決める際に重要な判断材料となります。
住宅ローンの契約内容
住宅ローンが残っている場合、残ったローンの支払い義務は誰にあるのかを知る必要があります。必ずしも不動産の名義人と同じとは限らないため、契約書類などから契約内容を確認し、債務を負っている方を明らかにしましょう。契約書類から分からない場合は、金融機関に問い合わせれば確認できます。
住宅ローンの債務者に関しては、以下のいずれかに該当するケースが一般的です。
- 夫が主債務者、妻が連帯保証人。又はその逆。
- 夫が主債務者、妻は債務負担なし(保証協会などを利用している)。又はその逆。
- 夫と妻が連帯債務者
住宅ローンの残額
不動産の名義人と住宅ローンの名義人のどちらも判明したら、住宅ローンの残額も確認しておきましょう。ローンの残額が不動産の査定額を下回る場合(アンダーローン)は、不動産の売却で利益を出すことができます。一方、不動産の査定額がローンの残額を下回る場合(オーバーローン)は、不動産を売却してもローンの支払いが続きます。
詳細は後述しますが、離婚後に不動産をどう処理すべきかはオーバーローンとアンダーローンで変わります。住宅ローンの「償還予定表」に返済予定の残額が記載されているので、正確に把握しておきましょう。
離婚時の一般的な住宅の処理方法や検討事項は?
離婚の際、一般的な住宅の処理方法としては以下の3つが挙げられます。
- 住宅を売却する
- 夫が住み続ける
- 妻が住み続ける
それぞれの処理方法については、次項より詳しく解説していきます。
家を売却する場合
家を売却するにあたってまず知っておきたいポイントが、売却方法です。家の売却方法は、大きく分けて「仲介」と「買取」の2通りがあります。
仲介は不動産会社などに家の売却を依頼し、買い手を探してもらいます。インターネット広告や店頭広告などは不動産会社が行ってくれる他、自分の希望価格通りに不動産を売却できる可能性が高いことがメリットです。ただし売却のタイミングや条件、価格設定によってはすぐに買い手がつかない場合があります。買取よりも売却までに時間がかかるケースが多いため、注意しましょう。また、売買が成立すると不動産会社へ手数料を支払わなければなりません。
一方、買取は不動産会社に家を買い取ってもらう方法です。基本的には不動産会社が家に訪問し、査定額を提示して売却を決めるという流れになっています。交渉次第で1週間~1ヵ月とスピーディな現金化ができるため、短期間での売却を重視する方にはおすすめです。また、仲介では不動産会社や内覧者が訪問してくるため対応が必要で、また周囲に売却を知られる可能性がありますが、買取は1度の訪問で査定が行われます。そのため、家の売却を周囲に知られたくない方にも適しています。ただし、買取での査定額は仲介と比較して60~70%程度と安くなってしまうことがデメリットです。
上記2通りの売却方法の検討とは別に、そもそも自分たちの家を本当に売却すべきかどうかは、不動産の名義と査定価額・住宅ローンの契約内容・住宅ローンの残額により変わります。
オーバーローンの場合
家の査定額に対して住宅ローンの残額が上回っているオーバーローンでは、住宅を売却しただけではローンを完済することはできません。そのため、金融機関が設定している抵当権を抹消できず、売却そのものがほぼ不可能となります。
ただし、家の査定額と残ローンの差額を預貯金などで補填できれば、住宅ローンの完済が可能となるため家も売却できます。その際、預貯金で補填した後の夫婦それぞれの生活に支障が出ないかを慎重に考えることが大切です。
アンダーローンの場合
住宅ローンの残額に対して家の査定額が上回っているアンダーローンでは、家の売却で住宅ローンを完済できます。そのため、通常の売却方法で手続きを進めても問題はありません。
ローン完済後もなお売却金が余った場合は、「財産分与」として夫婦で分けることになります。財産分与の方式には、以下の3つがあります。
- 清算的財産分与
- 扶養的財産分与
- 慰謝料的財産分与
上記の内、家の売却金に関しては清算的財産分与で分け合うケースが一般的です。財産分与の際は、生活保障や損害賠償といった観点も踏まえ、公平な分配となるように話し合いましょう。
連帯保証の場合
「債務者は夫で連帯保証人は妻」といったように、債務者と連帯して債務の弁済を行うことを連帯保証といいます。連帯保証の場合、アンダーローンであれば家の名義人が家の売却を判断できます。
一方、オーバーローンの場合は家の売却で住宅ローンを完済できないため、離婚後も債務者と連帯保証人の責務は継続となります。債務者の夫が住宅ローンを滞納すれば、妻は連帯保証人として代わりに支払いを肩代わりしなければなりません。
連帯債務の場合
連帯債務とは、住宅ローンに対して複数の債務者が弁済義務を負うことを指します。夫と妻が住宅ローンの債務を同等に負担するケースで、家が夫婦の共有名義となっている場合が多いです。アンダーローンなら、連帯債務でも夫婦の合意により通常の方法で家を売却できます。
しかしオーバーローンの場合、家を売却することはできないため、離婚後も夫と妻に債務の責任が残ります。金融機関の返済要求に対して支払いを拒絶する権利はなく、場合によってはどちらか片方が債務を全額負担しなければならない可能性があります。
ペアローンの場合
ペアローンは、夫婦2人で住宅ローンの債務者になることを指します。夫と妻がそれぞれで住宅ローンを組み、債務を負いながら互いの連帯保証人にもなります。ペアローンの場合は家の名義は夫婦共同となるため、夫婦の合意で通常どおり家を売却できます。
アンダーローンならスムーズに手続きが進みますが、オーバーローンの場合は注意が必要です。住宅ローンを完済するまでは、離婚後も夫婦それぞれに弁済義務と連帯保証人の義務が残ります。
夫が家に住み続ける場合
家が夫名義であれば、夫が家に残って住み続けながら住宅ローンの支払いを続けるという手もあります。ここで注意が必要なのが妻の責任です。妻に連帯保証や連帯債務がある場合、夫婦間で「夫がすべて支払う」と決めても妻に債務が残ります。
夫だけが責任を負う場合は金融機関と交渉し、妻から責任を外すことに了承を得なければなりません。しかし了承するかどうかは金融機関しだいで、かつ代わりの保証人や一部まとまったお金の支払いを求められる場合が多いです。
妻が家に住み続ける場合
妻が家に残って住み続けることもできます。ただし家の名義人は夫となっているケースが多い傾向にあり、それを前提とすると以下について検討する必要が生じます。
- 夫がローンを支払い続けるかどうか
- ローンの債務者を妻に変更するかどうか
- 住宅の名義を妻に変更するかどうか
子どもがおり妻が親権者になる場合は、養育費の代わりとして夫に住宅ローンを支払ってもらいながら家に住み続けるという手もあります。ただし家はもう夫の住居ではないため、必ずしも滞りなく支払いをしてくれるとは限りません。夫がローンの支払いを滞納したり拒否したりすると、妻は家からの立ち退きを迫られる事態になりかねません。また、住宅ローンは債務者と居住者が変わる場合は事前に金融機関との協議が必要です。
上記における対策のひとつに、債務者を妻に変更するという手段があります。妻に住宅ローンの支払いも難しくない経済力がある場合は検討しても良いでしょう。ただし債務者を変更する際も審査が行われるため、妻には経済力だけでなく年齢・健康状態・信用情報など住宅ローンの審査基準を満たす状態であることが求められます。
また、妻が家を取得する場合は名義の変更も検討すべき事項に含まれます。名義を変更しないと家は夫の財産とみなされるため、後からトラブルに発展する可能性があるからです。とはいえ、現実には住宅ローンを完済するまでは金融機関側が名義の変更を了承しにくいという問題があります。そのため、離婚の際は「住宅ローンを完済したら妻の名義に変更する」といった旨を夫婦で明確に合意しておくことが大切です。なお、家の価額を査定した結果、価額がローンの残額を上回っている場合はそのプラス部分を財産分与する必要があります。
離婚した後も住み続けられる解決策とは?
離婚後、名義人や債務者ではない妻が家に住み続ける場合はさまざまな問題が立ちはだかることは先述した通りです。名義人や債務者の変更ができず、希望に反して、家に住み続けるのが難しい現状にお困りの際は「リースバック」の利用を検討しましょう。
リースバックとは家を売却して資金を得ると同時に、その家で賃貸契約を結ぶサービスです。まとまった資金が得られるため住宅ローンが完済しやすくなるだけでなく、その後は家賃を支払いながら家に住み続けることができます。
まとめ
離婚にあたり、住宅ローンが残っている場合はまず「不動産の名義・価額」「住宅ローンの契約内容」「住宅ローンの残額」を明らかにする必要があります。その結果に応じて家を売却するか、夫婦のどちらかが家に住み続けるかを選ぶと良いでしょう。なお、夫が家の名義人となっていることが多いですが、その場合に妻が家に住み続けるというのは実現が難しい選択肢です。その際は売却でまとまった資金を得ながら賃貸契約を結んで家に住み続けられる、「リースバック」の利用を検討するのもおすすめです。
リースバックについて詳しく知りたい方はこちらをご覧下さい。
【関連リンク】リースバックとは?